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福岡高等裁判所 昭和25年(う)1843号 判決 1950年12月09日

控訴人 被告人 堀今朝数

弁護人 高宮蘇吉

検察官 山本石樹関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四月に処する。

但しこの判決の確定した日より二年間右刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用中、証人堀敏政、同菅国登、同赤峰留、同小伏間文生、同熊野今朝男、同秦今朝市、同佐藤子老、同白石辰馬、同白石輝久、同佐藤拓郎に支給した分は被告人の負担、同新井誠に支給した分は被告人及び原審相被告人白石ユキヱの平等負担、当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人高宮蘇吉の控訴趣意は末尾に添付する控訴趣意書に記載するとおりである。

所論によれば、原判決が被告人において中和産業有限会社の社員としてその業務上堀敏政外九名の生産者から「なたね」三十七叺を買入れて、一叺につき金三千二百円(又は三千円)の割合で右生産者等に支払つた旨認定した金員は、同会社から将来右生産者等に対し油及び油粕の還元配給をなすことを担保するための保証金であるというのであつて、結局この点に関する原判決の事実の認定が誤つているということに帰する。しかし所論の各証人の証言中には所論にそうべき供述がないではないが、これらの供述は原審証人熊野今朝男、同赤峰留、同佐藤拓郎、同新井誠の各証言に照して到底信用するに足りないのみならず訴訟記録及び原審の取調べたその他の証拠を精査しても、原判決に所論のような事実の誤認があるとは認められないから論旨は理由がない。

次に職権を以て調査するに、原判決中被告人に関する判示第一によれば、原判決は「被告人は中和産業有限会社の社員として同会社の業務上、昭和二十四年七月十五日頃より同月二十日頃までの間十回にわたり堀敏政外九名より、同人等が生産した「なたね」三十七叺(一叺十二貫入)を買受けるに当り、その代金を統制額より六万二千百二十五円五十銭超過した金十一万七千八百円と定め、これを油及び粕の還元配給保証金名義で生産者に交付し」た旨を認定しながら、更に「もし将来会社から生産者に対し油及び粕の還元配給がない場合には自然この金額を以て取引を決済終了する暗黙の約旨の下に「なたね」の買受けをなし、以て物価統制令所定の統制額超過支払禁止を免るる行為をしたものである」旨を認定しているのである。すなわち原判決は、それぞれ一個の行為を構成する一連の事実について、その前段においては物価統制令第三十三条第一号、第三条の違反に該当する事実を認定しながら、その後段においては同令第三十三条第三号、第九条の違反に該当する事実を認定し、しかもその全部を後者の法条に問擬処断しているのであつて、原判決には明に理由のくい違いがあるものといわなければならない。それ故原判決は破棄を免れない。

そこで刑事訴訟法第三百九十七条、第三百七十八条第四号後段及び第四百条但し書に則つて、原判決を破棄し且つ当裁判所は更に自ら次のとおり判決する。

被告人は油糧配給公団の指定集買機関である別府市大字亀川、中和産業株式会社の臨時社員として同会社の業務に関し、法定の除外事由がないのに原判決添付の被告人に関する買受一覧表記載のとおり昭和二十四年七月十五日頃より同月二十日頃までの間十回にわたり大分県直入郡荻村において、堀敏政外九名より同人等が生産した「なたね」三十七叺(一叺十二貫入)を、その統制額より金六万二千百二十五円五十銭超過した代金合計十一万七千八百円で買受けたものである。

<証拠説明省略>

被告人の判示各所為は物価統制令第三十三条第一号、第三条、第四条昭和二十四年八月十日物価庁告示第六百一号に各該当するところ、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから所定刑中各懲役刑を選択した上、同法第四十七条本文第十条によつて、その内犯情の最も重い管国登との関係における罪の刑に法定の加重をなし、その刑期の範囲内において被告人を懲役四月に処する。但し諸般の犯情を考慮して同法第二十五条に従いこの判決の確定した日より二年間右刑の執行を猶予する。なお主文掲記の訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項によつて被告人の負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長判事 谷本寛 判事 竹下利之右衞門 判事 佐藤秀)

弁護人高宮蘇吉の控訴趣意

(一) 公訴事実は被告人が各生産者から菜種計三十七叺を統制額を六万二千百二十五円五十銭超過した代金十一万七千八百円で買受けたとなし之に対し被告人は原審に於て「自分は中和産業有限会社という集買指定機関に雇われ集買に従事したが還元配給を保証するため一叺に付三千二百円を生産者に渡したのであつて右は還元配給(一叺に付油三升七分五勺粕六貫七百五十匁)ある迄の担保である」との趣旨を供述し犯罪責任のないことを弁解した。

右三千二百円にして保証のため授受されたものとすれば被告人が所有権を移転したものでなく物価統制令に違反するところは無い。

(二) 原審に於ける生産者十一名(堀今朝数関係分)の証言に徴すれば「各生産者は金よりも還元配給の油及油粕を必要とし昭和二十三年産の菜種供出に対する還元配給も未だ為されてないで困つて居ること、被告人からの供出勧誘に対し還元配給を早急にする様努力して呉れると考え供出したこと。但し其配給に付従来の例により不安があり被告人と交渉の上還元配給ある迄の保証金の趣旨で三千二百円を受取つた旨」を容認することが出来る。

(三) 一方被告人は生産者と同村であり中和産業有限会社よりも生産者側に立つべき地位にあると共に従前指定機関が集荷し乍ら還元配給遅延して居ることを知り生産者を安堵させる必要があつたのである。即ち還元配給の正確を保証するため本件の様な取引形態となつたものである。

(四) 新井誠証人は「被告人は十四万二千円を正式取引の金として渡し内二万円返還を受けた」と述べて居る被告人は其事実を認めて居り夫々保証金として生産者に交付して居る。且集買伝票も各生産者に交付して居つて手続上間然する所はない。果して然らば被告人の行為は物価統制令違反と断ずることは出来ぬ。勿論中和産業有限会社が其後事実上解散し還元配給も未だなされて居ないとしても夫れは別個の観点から判断すべきであつて本件公訴事実を維持する理由にはならない。

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